04.2.10 ベルトが切れた!?<水冷Z・GTL>


今回は某サブロクレースで毎回好成績を残しながらもレース中の事故により愛車のエヌを失ってしまった“矢沢、田吹チーム”が新レースカー投入ということで持ち込まれたクルマの話です。といっても“タイミングベルトが切れていて不動”というふれこみの状態で買ってきて、そのままウチに入ってきました。こわれたエンジンを観察するのは毎回楽しみです。とはいえ、神様であるお客様のクルマに「こわれろ〜」と呪をかけているわけじゃありませんよ、我々はそんなに悪人ではないですので誤解しないで下さいね。

 


やっぱりちぎれてた!

ライフ系のタイミングベルトが切れてしまったという事例はなんらかの原因がない限り滅多にないので、「ホントにきれてるのか?」と早速開けてみました。その前にプーリーカバーがキレイに丸く盛り上がっているのが気になりますよね。で、やっぱりちぎれていました。(原因がなくても寿命などでちぎれる事もあると思います、念のため!)

そして犯人がいた!

カバーを外してみると2つに折れたボルトとワッシャーが落ちてきました。プーリーカバーの盛り上がりはフリーになったカムプーリーが遠心力で外へ出ようとして内側からぶつかっていたんですね。結局、はずれたボルト類がベルトに噛み込んでちぎれたものと判断しました。それにしても、なんでボルトがとれちゃったのだろうか?


どっちが先?

カムプーリーを押さえているボルトは2つに折れています。ボルトが折れたのが先か、緩んだのが先か・・答えはプーリーにありました。ドライバーで指している部分に激しくぶつかった跡がありますので、緩んだのが先で、その後プーリーが暴れてぶつかったのでボルトが折れてしまったようです。とにかく、ヘッドやピストンなどにどんなダメージがあるのか、一刻も早く開けてみましょう。

ピストンにスタンプ

右側ピストン排気側に軽くバルブスタンプがありました。(ドライバーで指している箇所)よくみると左吸気側(矢印)にもうっすらついているようにも見えます。手でクランキングしてみてもクランク、コンロッドのガタは特に無いようですし、引っ掛かりもありませんでした。これは奇跡的にも軽症で済むかもしれないと期待させます。でも一応腰下も開けてチェックすることにします。


衝突したバルブは・・

さてヘッド側です。やはりぶつかった跡がありますが、見た感じ「もしかして大丈夫なんじゃないの?」と期待させます。しかし、カムを抜いて洗油を張ってみるとざ〜っと流れていってしまいました。密閉できないようですね。ちょっとあやしい感じの矢印部分のバルブは問題なく気密を保てていました。

中古バルブを再生

問題のバルブはやっぱり曲がりがありましたので、手持ちの中古バルブを使用する事にしました。しかしバルブシート当たり面が荒れていたのでボール盤とヤスリで切削し、擦り合わせを行なったところ見事成功しました。洗油チェックも合格です。バルブガイドにもダメージはなく、ヘッド側は最小限のダメージで済んだようです。


タイミングベルトが切れる状況というのは間違いなくエンジンが回っている状態ですが、アイドリングで切れたのか、高速を走っていて切れたのか・・今回は故障時の状況が全く解らないところからの作業です。まずはベルトが切れてしまった原因は判明しました(カムプーリーのボルトが噛み込んだ為)。さらに、故障の状況はおそらく低回転時だったものと思われます。もし、高回転時ですとよっぽど運が良くなければ回転の慣性によって、もっとダメージがあるんじゃないかと思います。分解する前までは「いままで開けた事のないエンジンかな?」と思っていましたので、プーリーのボルトが外れた原因がナゾだったのですが、ヘッドやピストントップのカーボンも少量だし、クラッチの汚れがほとんどないことなどから、前回オーバーホールした際にプーリーボルトを締め忘れたのが原因ではないかと推測されます。(あくまで推測)
壊れたエンジンを分解する時は“原因がどこにあるのか”を考えながら進めていくのが肝心でもあり、楽しくもあります。
以前、オールドタイマー誌の某編集者が“ホンダZ草レーサー化計画”の企画で「EAエンジンの限界に挑戦する」とばかりに徹底的にパーツの軽量化を計ったエンジンを製作し、ネオライフレースカーに積み込んでレースに参戦した事があります。案の定、2レース目でブローしました。ブローする前はホントに気持ちよく回るエンジンだったそうですが・・。後日の分解時には志願して自分が立ち会いました。その壊れようはまさに鳥肌モノでしたが、同時に美しくもあり感動を覚えた事をいまでもハッキリおぼえています。(詳しくはオールドタイマーNo.57)
とにかく今回のZ君はここまでは軽症で一安心ですが、今回無事に見えたシリンダーも開けてみないとホントの安心は得られないですよね。次回開けてみます、お楽しみに。