いや〜、冥利につきます、奇跡的なモデルが入庫です。程度極上のLNタイプ1です。しかもリアハッチは横開き、ナンバーはシングルの6。タイプ2や3に比べてさらにむかしのクルマという雰囲気がプンプンです。エンジンは伝説の左プーリー、キャブのリンケージも左です。このあたりのパーツの互換性はほとんど無いと言っていいでしょう。それだけにオーナーに大切にこきつかわれる(?)ことでしょう。なにしろ10年以上探して、やっと理想のモデルに巡り合えたということですので。 |
空冷キング 去年ここに登場したLN3が“空冷スター”だとするとコイツは“空冷キング”といったところですね。やっぱり「クルマは積めてナンボ」と思わせるこのルックス、たまりません。車検のため外してありますが、ホイールキャップもきちんとついています。 |
麗しい後ろ姿 乗用の後ろ姿ももちろんいいんですが、これはまた美しいデザインです。ドアノブやリアのエンブレムなど、妥協のない手の込んだ質感にデザイナーの意気込みが感じられますね。ヒンジが外に見えているなんて現代車じゃありえません、これも機能美です。 |
横開きハッチ このハッチも趣があります。上下開きタイプもそうですが、LNの最大の魅力はこのハッチの雰囲気です。しかし、どうして2タイプあったんだろうか?業種によって売り込みやすいようにでしょうか?誰か教えて下さい。 |
室内も程度極上 室内も後のタイプとは異なる部分が多くあります。まず目を引いたのがリクライニングのレバーです。長く頑強そうなレバーがついています。シートの芯は昔の不動産屋のソファーなどでよく見られた“ヤシがら”素材で「ミシッ」と独特の座り心地です。 |
エンジンルームは・・ その後のエンジンを鏡に写したかのように左側のプーリーにファンベルトがかかっているのが不思議な感じです。スロットルやチョークのリンケージも左側についています。ヘッドカバーにはHONDAのロゴはなく、オイルフィラーキャップの“3?”の刻印が微笑みを誘います。 |
ブラシ交換は容易 プーリーがないのでブラシへのアクセスはラクチンです。ステータ−コイルのベースも違うもののようです。ブラシを接続する端子(印部分)が上を向いていますので工具も入りやすいですね。 |
今回の整備依頼内容は、車検の取得と調子出しです。具体的にはスロットルをちょっと開けたところで回転が落ちてしまい、うまく吹かしてやらないとエンストしてしまいます。加速ポンプの部分に不具合があるというのはオーナーより申告がありましたので、その部分ももちろんあやしいのですが、回転をあげて引っ張った時にちょっと力不足という感もありましたので、まずは点火タイミングを疑う必要があるなと思いました。案の定、若干タイミングマークがずれていたので合わせてやると、今度はバックファイヤー(エアクリーナー側で爆発)を起こします。これもまたタイミングずれによっておこりうる症状です(その他にも原因がある場合もありますが)。さて、ここからが?マークが飛びかう長い夜のはじまりでした。 |
加速ポンプの修正 キャブレターはオーナーによってオーバーホールが施されていました。その際に加速ポンプの通路の詰まりを取り除く為に真鍮製の盲栓に穴を開けたので4mmのタップを切って、短くカットしたビスをプラグにしました。ここにはワンウェイバルブが入っていてガソリンの流れ方向を制御していますので、長いビスだと機能しなくなるおそれがあります。 |
驚きの結末 プーリーに刻まれている点火マークに合わせてセッテイングしてもどうにも調子が出ません。カムを見てみるとファンプーリーの上死点マークとカムの関係が狂っています。カムチェーンを正規と思われる位置に掛け直したらさらに具合が悪くなります。う〜ん、どうにもつじつまが合わないのでプラグを外してピストンを観察したところ、信じられないことにプーリーに刻まれているTマーク手前でピストンが下降を始めます。どう考えてもプーリーの刻みがずれているのです。プーリーの差し込む位置を一角ずらすとさらに大きく位置がずれてしまいますので、製造時になんらかの原因でマークの刻み位置が狂ってしまったのでしょう。赤印がメーカーがつけたTFマーク。青印は今回新たに刻み直したマークです。こんなにずれてました。 |
しかし今回はひっかけ問題でしたね〜、というより最初から設問が間違ってるんですけど・・。まさかメーカーが刻んだマークが間違ってるとは最後まで気がつかなかったですね。いくらやっても点火時期がずれているような症状に大いに悩まされました。100歩譲ってプーリー以外の部分が狂ってるとしたらクランクの嵌合がずれちゃったくらいしか考えられませんが(ファンプーリーはクランクに直結)それこそあり得ない話ですね。これじゃあいくら点火マークを合わせてもきれいな燃焼は得られませんし、もちろんエンジンの性能を発揮することもできません。さらには車検の排ガス検査でひっかかっちゃうかもしれません。これが発売された当時は軽自動車の車検もありませんでしたのでこんなもんでよかったんですかね〜?いままで約40年の間完調だったことがあったのだろうかと思ってしまいました。おかげさまで今回はたっぷり勉強させていただきました。 左プーリーの車両をこんなにじっくり観察したのは今回が初めてでした。見たことはあっても触れる機会や、ましてはドライブ(試乗)できるなんてことは滅多にありませんね。仮に「乗ってみる?」なんて言われても「いや〜、自分はいいです、」なんて感じの恐れ多い“空冷キング”ですから。ホント整備屋冥利につきますね、ごちそうさまです。 |