05.9.3 腐ってもビンテージ<カブC105・その1>


神奈川県のライフ乗り、"彩香のパパ”さん(以下Pさん)から「カブを入手したんだけど動くようにしてくれない?」と依頼がありました。購入先からは“キャブ清掃で動く”と言われたそうです。それなら箸休めにちょうど楽しいかも?ということで引き受けましたが、現車を一見して現実は“そんな甘いシロモノではない”ことに気がつきました。Pさんも実車を前にして「作業の合間でいいから、なんとか動くようにだけなれば・・」とトーンダウンです。

まずは簡単に点検してみますと、点火しない、ブレーキまわりの固着が激しい、ホイール、スポークさびさび、タイヤ裂けてる、マフラーはモナカが開いちゃってアンコも皆無、エンジン圧縮無し(キックペダルが指2本でスカスカおりちゃう)等々・・「キックが降りるだけマシか・・」と思いながらも「こりゃ結構大変だぞ」と、しばらくは無かったものとして工場の隅に追いやられていました。それから数カ月の間、ちょこちょこ遠巻きに様子は見ていましたが、いよいよ本格的に作業に入りました。


いよいよ本格的作業開始

まずは、点火させてみようと・・

点火しない原因はポイントだろうと思っていましたが、バッテリーを点検してみようとサイドカバーを開けてみるとハーネスがご覧の有り様です。納屋の中で保管していたのか、ネズミにかじられていて相当なダメージを喰らってます。少なくともメインハーネスはところどころ喰われ方がひどく、修復は不可能な状態です。

ワラとドロとの戦い

OHVは分解もラクチンなので、一気にシリンダーまで降ろして圧縮ぬけの原因を探ってやろうと分解していきます。このカブは何年ほったらかしてあったかわかりませんが、エンジンの下半分くらいまでワラとドロがびっしり張り付いています。ネズミの死骸とか出てこないかとちょっと不安です。さらにおばあちゃんちの納屋のにおいがぷんぷんです。

ピストンリングの状態

ピストンを点検してみますと、焼き付いた跡はないものの、ネトネトになったオイルによって各リングが張り付いています。特にセカンドリングはほとんど固着状態でした。ピストン、シリンダーには縦方向のキズがありますが、古いオイル垢とカーボンを落とせばこのままいけちゃいそうです。

 

レーシングスタイル?

写真はピストンピンです。内径が外側からからテーパー状に肉抜きされているのがわかりますでしょうか?強度を必要とする中心部分の肉圧だけ残しての軽量化です。レーシングエンジンチューンでは定番の加工で、テーパーではなく凸型に肉抜きされているものもあります。その後のOHVのカブではこんな加工はされてなかった気がしますが・・さすがオールドホンダはこだわりが違いますね。

シリンダーヘッドの状態

さて、ヘッド側はどうかな?帰りに燃焼室に洗油を張っておいて次の日の朝にはすっかりなくなってましたので、バルブの密着もよくないようです。写真のバルブはカーボンを落としてフェイスを整えた状態。しかしどのパーツも小さくてかわいいですね。

バルブの擦り合わせ

バルブがあまりにも小さくて擦り合わせのタコ棒の吸盤もくっつかないですね。そこで、バルブ中央にあるくぼみを利用してマイナスドライバーで摺り合わせます。この溝の意味ってこういうコトだと思っていますが、実際の意図をご存じの方はぜひ教えて下さい。

ピストンの向き

ピストンの向きはバルブとの干渉という理由以外にもピンのオフセットがあるので重要です。このピストンには矢印が刻印されていますが、上に向けて組んでしまう事例が少なくないようです。ついつい“矢印が上だろ”と思ってしまいがちですがこのエンジンでは“矢印を下向き”が正解です。どんな車両のピストンでも刻印が矢印の場合は排気の方向を意味していますので、そのように覚えると間違えないですね。

シリンダー搭載

シリンダー内は縦方向のキズが残っていますが、軽くならしてそのまま使用します。カブエンジンは結構なキズでも全然問題なく走っちゃいますのでこのあたりは楽観です。あらかじめコンロッドとピストンをジョイントしてからピストンリングを圧縮してシリンダーを押し込むのが基本ですが、自分の場合は先にシリンダーにピストンを入れてしまいます。この順番は人それぞれ好みでOKですね。


まだまだ先が長いね〜

このカブって40年くらい前の車両?とにかく古いですよね。また、放置期間が相当長かったようですね。これからハーネスも何とかしなきゃいけないし、ホントに先が長いな〜、という感じです。Pさんの当初の計画とは大分ギャップがあったようですが、この状態を見てしまったので催促もせずに待っててくれてます。作業に入るまでは長かったけど、ここまでやったら一気にいっちゃうよ〜、ということで夏の間には乗れるようにと目標を立てました。この車両については、なるべく費用をかけない方法でこちらにおまかせの作業となっていますので、これから先の作業も現状パーツの修正と工夫でなんとかしようともくろんでいます。

久々に長編レポートになりました。次回はハーネス、エンジン始動の様子の予定です。

腐ってもビンテージ<カブC105・その1> つづく