第5回『電卓・計算機』12.2.3


「電卓ってすっかり退化しちゃったよね〜」

電卓が普及したせいで人類がバカになったんじゃないの?

電卓も今や100円ショップで買えちゃう時代ですが、家庭に普及し始めた頃はそこそこの贅沢品で、家電製品に近い印象がありましたね。子供の目には「未来の夢の道具」みたいなSFチックなワクワク感もあったような気がします。そろばんよりも早くて正確。「トランジスターってすごいな〜」なんて思って、今のように家庭のPCで何でもできちゃう世の中になるなんて想像さえしていない“のどかな時代”だったワケなんですね〜。

そんな、電卓がいわゆる「コンピューター」だった頃のモデルが手元にありましたので紹介したいと思います。




『カシオ・AS-8E』1972年

価格29,800円で1972年4月に発表。
(左上)
現代のものと比べるとずいぶん大型の卓上電卓です。(左の赤いのがiPhoneです)電源は100Vコンセントを使用するためトランスが組み込まれているので重量もかなりのもんです。
(右上)
キーも大型で入力しやすく「確実に押せた」という感触が指に伝わる抜群のクリック感が心地よいモデルです。これは当時のプロの事務員をうならせたのではないかと予想されます。
(左下)
表示は現代のような液晶ではなくニキシー管(ガラスに覆われたセグメントのやつ)が使われています。ゼロ表示は下半分。計算中のときに数字がクルクルとフラッシュするのもなかなか味がありますよ。



『カシオ・AS-8Eの内部』

我慢できずに開けてみた

(左写真)キーボードの不思議と心地よいタッチがどうしても気になって、開けてみました。件のキーはなんと無接点方式です。磁界の乱れかなんかで押したことを認識しているのでしょうか、車で言うところのフルトラの無接点ピックアップみたいなもんだと予想されます。現代の安価な電卓はテレビなどのリモコンと同じようにラバーキーのうしろにカーボン塗料みたいのが塗ってあって、しばらく使っていると使い減りによりキーの反応が悪くなったりして寿命を迎える訳ですが、これならメカや電子パーツの劣化がおきない限り不具合の起きようがないですね。これぞハードの使うプロ仕様、一生もんの道具のありかたですよ。
(右写真)整然と並ぶ表示管、なんだかカッコイイですね〜。こうして改めて観察するとおおげさなパーツですよね。その後、液晶の技術進化によって相当な軽量化、コンパクト化、省エネ化、さらにはコストダウンが可能になったんでしょうね〜。

開けたついでに
内部のクリーニングも行いました。開ける時に驚いたのは、裏側についている上下の筐体をつないでいる4本の4mmビス。現代製品のこのテの樹脂筐体の組み立てはスクリューが使われているのが一般的ですが、これは何度も開け閉めできるようにメスネジ側にわざわざ真鍮のボスが埋め込んであり、「故障した場合は修理をする」「表示管が汚れで曇ったらクリーニングの為に分解する」という前提で設計されたことが伺い知れますね。もちろん高価であったこともありますが、ひとが手を入れて修理が可能な製品という意味ではサブロクなどにも通ずるところがあるのではないでしょうか。そういえば年式的にも近い時期だよね。




『カシオミニ・CM-604』1974年

価格8900円で1974年2月に発表。

初めて1万円を切る価格で販売し、一般家庭用に普及させるべくプロダクトされたモデルのカシオミニシリーズは100V電源ではなく単三電池4本または外部アダプターで動作するためトランスを内蔵する必要がなく、上記のAS-8Eと比べると遥かにコンパクトになっています。厚みは約2.5cm、iPhonの約2倍くらいでしょうか。ゼロ表示は相変わらず下半分です。



コイツも開けちゃえ

やっぱり内部を見たくなっちゃって・・・

クリーニングついでにやっぱりコイツも開けてみました。左の写真を見て下さい、基盤の裏側の風景が世界遺産並みです。いかにも手で図面を書いて設計したと思われる美しい基盤のランドパターンを見ただけでも開けたかいがあったというものですね。筐体には49.1.28のスタンプが押されています。

気になるキーボタンの仕組み(右写真)はAS-8Eにくらべてだいぶシンプルな設計となっており、金属のプレートが接点と戻りのバネの両方を兼ね備えた仕組みになっています。コストは抑えられていますが、決して安っぽい印象ではありません。




お気に入りの現代モデル『MILAN』

良心を感じる造り込み

これはスペインの事務用品メーカー『ミラン』の現行モデルなんですが、全体のデザインや配色がホントにおしゃれですよね。全体の大きさ、キーの形状、液晶の角度などホントにバランスよく考えられて造っているという印象を受けます。デザインの美しいものは機能的にも優れているということを再認識させてくれる、使っていて楽しい電卓です。キータッチはPCのキーボードを柔らかくしたような、それでいて押し込んだ時のクリック感がとても軽快なところも気に入っています。(製造は中国)






「普段、そんなに計算ばっかりしてないけどね」

『カシオミニはスタンドも特注しちゃった』
製作はもちろんタイムラインさん


こうして改めて電卓なんかを観察していると、日本のモノづくりはせいぜい昭和で終わっちゃってるな〜、という印象を受けます。(断っておきますが、自分は旧けりゃなんでもいいというような極懐古趣味ではありません)技術者がしのぎを削って良いものを造ろうとして生み出されたモノだからこそ、平成の今でも問題なく実用に耐えるクォリティを維持できているわけで、現在電器屋などに並んでいるカシオ電卓を見てもなんの魅力もないし、ほかのどの商品を見ても一生モノとして使えそうなものは量販店にはほとんどないと言っていいかもしれません。『ミラン』のように使いたくなる気分にさせる、それでいて機能的にも優れた製品は日本はもう生み出せないんじゃないかと思ってしまいます。それは、日本人が安い使い捨てのモノばかり買うからじゃないでしょうかね。少々高価でも永く使える優れたものを選んで購入するようにすれば、永く使える優れたものを造ることができるメーカーが生き残れるワケで、その技術やデザイン力が日本の財産にもなるんじゃないかと思うのですが・・・。現代車でNやライフみたいに40年先も乗れるクルマってないよね。



今回の記事を書くにあたってインターネットでいろいろ調べてみたら
電卓の世界もやっぱりコアなマニアがいらっしゃるようで・・

今回参考にさせて頂いたサイト(すごく楽しいですよ)

電卓博物館

計算機博物館

今回紹介したような旧い電卓はリサイクルショップのジャンク箱なんかでもちらほら見かけることがありますよ。そんなのを入手した方はぜひオレにも見せて下さいね。


<第5回『電卓・計算機』>おわ